研究

2017年1月23日

細胞膜中のコレステロール分布を測定できるセンサー分子を開発

 京都大学iCeMSの植田和光教授を含む国際共同研究チームは、細胞膜中にコレステロールがどのように分布しているかを測定できるセンサー分子の開発に成功し、細胞機能がコレステロール分布の変化によって調節されていることが明らかになりました。本成果では、今まで不明だったコレステロールとがんの関係性を示唆する新たなデータも示されており、将来的にはがんの診断などへの応用につながることが期待されます。

植田教授

 コレステロールは細胞にとって必要不可欠であり、細胞と外部環境との境界である細胞膜を構成する主要な脂質のひとつです。しかし、膜中のコレステロール分布は、従来の可視化技術では正確に測定することができませんでした。そのため、コレステロールが細胞膜の外側と内側のどちらに多く分布しているかは、これまで議論が分かれており、さらに、その分布の変化が細胞機能に影響を与えるかどうかも不明でした。

 今回、米国イリノイ大学、韓国慶熙(キョンヒ)大学、京都大学iCeMSの研究者らは、細胞膜中のコレステロールを計測できるセンサー分子を新たに開発しました。センサー分子には、パーフリンゴリジン0(オー)と呼ばれる細菌性毒素蛋白質から取り出される、D4ドメインという構造ユニットを使用。このD4ドメインは高濃度のコレステロールに反応し結合することが分かっています。研究グループは、このD4ドメインに変異を加え、さらに細胞膜への結合によって蛍光波長が変化する二種類の発色団で標識することによって、膜の内側と外側のコレステロールを同時に感度よく計測できるセンサー分子を開発することに成功しました。

 開発されたセンサー分子によって、細胞膜脂質二重層の内側のコレステロール濃度が外側の濃度の10分の1以下であることが明らかになり、さらに、この不均一な分布が、コレステロールを外側に向かって動かすトランスポーターによって維持されていることがわかりました。細胞が増殖シグナルを外部から受け取った時、コレステロールは細胞膜の外側から内側に移動し、内側のコレステロール濃度が上昇します。この増殖シグナルに伴ったコレステロールの再分布は、細胞機能の微調整にとって重要であると研究グループは考えています。

コレステロールは細胞膜の脂質二重層を構成する主要な脂質のひとつです。本研究によって、細胞膜の内側のコレステロール濃度が外側の濃度の10分の1以下であることが明らかになりました。

 これまでコレステロールとがんの関係が指摘されてきましたが、その詳しいメカニズムは不明でした。今回、本研究によって、増殖に関わるシグナル蛋白質Wntに変異をもつ大腸がんにおいて、細胞膜内側のコレステロール濃度が高く維持されていることが明らかになりました。これは、細胞膜内側のコレステロール濃度とがんの増殖性の関係を示唆するものであり、今後、細胞膜中のコレステロール濃度の測定が、がんの診断に役立つ可能性があります。

 本研究チームでコレステロールトランスポーターの研究を推進する植田教授は「今回の成果は、細胞膜コレステロールのダイナミックな分布変化が細胞機能の調節に重要な役割を担っているという新しい概念を提示するとともに、それを検証するための実験手法を提供するものです。」と述べています。

文献情報

"Orthogonal lipid sensors identify transbilayer asymmetry of plasma membrane cholesterol"

Shu-Lin Liu, Ren Sheng, Jae Hun Jung, Li Wang, Ewa Stec, Matthew J O'Connor, Seohyoen Song, Rama Kamesh Bikkavilli, Robert A Winn, Daesung Lee, Kwanghee Baek, Kazumitsu Ueda, Irena Leviatan, Kwang-Pyo Kim and Wonhwa Cho

Nature Chemical Biology | Published on 26 December 2016
doi: 10.1038/nchembio.2268