研究

2020年8月28日

哺乳類の多能性幹細胞における機能性遺伝子のネットワークとその多様性を解析

研究チームは、48種の哺乳類の多能性遺伝子制御ネットワークに属する134の遺伝子セットを比較し、このネットワークが種を超えて高度に保存されていることを発見しました。(©高宮ミンディ/京都大学アイセムス - CC BY 4.0)

 京都大学アイセムス(高等研究院 物質-細胞統合システム拠点)の亀井謙一郎(かめい・けんいちろう)准教授と、同大学野生動物研究センターの村山美穂(むらやま・みほ)教授、遠藤良典(えんどう・よしのり)大学院生らの研究グループは、iPS細胞など多能性幹細胞の未分化維持に働く遺伝子たちの遺伝的多様性とその機能について、哺乳類において解析することに成功しました。この研究により、多能性幹細胞技術が、絶滅危惧種など、多くの哺乳類に発展していくことが期待されます。

 iPS細胞の誕生により、個体実験や生体試料の取得が難しい野生動物からも多能性幹細胞を作成することが可能となりました。山中教授が発見した初期化因子は他の動物種にも有効なことが示されていますが、一方で、動物種によって必要な因子が異なることも報告されており、その原因やメカニズムは不明でした。これまでの研究は、ヒトやマウスなどの実験動物を中心としたものであり、他の動物種の情報が非常に限られていました。

 そこで今回の研究では、多能性幹細胞を制御する遺伝子ネットワークに着目しました。細胞内では、数多くの遺伝子がそれぞれ影響するネットワークを形成し細胞の機能を制御していますが、それは組織や動物種によって異なります。また、遺伝子の配列も動物種によって異なります。そこで本研究では、多能性幹細胞に重要な遺伝子とそのネットワークをほぼ全ての哺乳類を対象に比較解析することで、哺乳類の間で進化的に「保存」されている経路、「多様化」している経路を特定することに成功しました。さらに、多様化している遺伝子を調べたところ、種固有の適応進化との関連が見えてきました。

 本研究で得られた成果は、それぞれの動物種に適したiPS細胞技術の開発に応用できるだけでなく、個体を用いて研究することが難しかった動物の生理機構や初期発生メカニズムの解明などに役立つことができます。また、iPS細胞は動物種の保存にも重要な位置づけとなります。

 本成果は、2020年8月11日に英科学誌「Genome Biology and Evolution」にオンラインで公開されました。

詳しい研究成果について

哺乳類の多能性幹細胞における機能性遺伝子のネットワークとその多様性を解析(PDF)

書誌情報

論文タイトル:“Genetic signatures of evolution of the pluripotency gene regulating network across mammals”
(参考訳:哺乳類における多能性制御遺伝子ネットワークの進化の遺伝的な痕跡)
著者:Yoshinori Endo, Ken-ichiro Kamei*, Miho Inoue-Murayama* (*は本研究全般に関する責任著者)
Geneme Biology and Evolution|DOI: 10.1093/gbe/evaa169